
HACCPは、日本語で言うと危害要因分析重要管理点です。これは、2021年6月より国内のすべての食品事業者に対して義務付けられた食品衛生管理法です。HACCPを導入するにあたって、さまざまな疑問があることでしょう。ここではその疑問について解説するので、ぜひ参考にしてください。
HACCP導入・義務化の背景
HACCAPが導入される以前、食品事業者は一般衛生管理を行っていました。HACCPは、それよりも徹底した管理方法です。2018年に食品衛生法が改正され、その2年後にHACCPの義務化が施行されました。ここから1年の経過措置期間を経て、2021年6月にはすべての食品事業者への義務化が施行されました。
HACCPを含め、このような食品衛生法の改正が行われたことには、主に3つの理由があります。1つめは、前回の食品衛生法改正からの15年の間に、食を取り巻く環境やグローバリゼーションに変化があったことです。
2つめに、国内での食中毒の発生率を低下させる取り組みの成果が芳しくなく、これまでより強固な対策が必要となったことが挙げられます。3つめに、2021年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に際し、食品の輸出促進のため国際基準に合わせた衛生管理が意識されるようになったことがあります。
HACCP導入のメリット
HACCP導入には、手間やコストがかかりますが、大きなメリットもあります。ここで、具体的なメリットをご紹介しましょう。
食品の安全
最大のメリットといえるのは、食品の安心・安全です。これまでの衛生管理法では、検食と拭き取り検査を実施していました。検食は、問題が発生してから原因の究明のために行うものであり、問題自体の発生を止めることはできませんでした。また、拭き取り検査では結果が出るまでに24時間以上必要なこと、実施回数が少ないことから異常の発見までに時間がかかっていました。
しかし、HACCPでは、問題の原因となるポイントをあらかじめ突き止めて管理するため、問題の発生自体を防げるのです。食品の安全というのは、すべての食品を扱う事業者・消費者にとって最も重要な課題です。
衛生管理に対する従業員の意識向上
HACCPでは、HACCPの考え方を取り入れた衛生計画書が必要となります。衛生計画書では管理するべき点が工程ごとに細かく定められており、管理した内容を記録する必要もあります。さらなる安全性を目指し計画内容の変更も行うことから、従業員ひとりひとりの日々の意識を向上させられるのです。
教育の平準化
HACCPを導入することにより、衛生管理のルールが明確になります。これまでは明確なルールが定められていなかったため、個々のやり方で衛生管理を行っていた背景がありました。しかし、新たに明確化されルールが存在することで、同じ基準で従業員に教育を行うことができ、業務の平準化を進められるのです。
作業効率のアップ
HACCPの導入には、作業工程図を作成する必要があります。この作業工程図は、食品製造にかかるそれぞれの工程を図にし、危険要因を分析するために使うものです。
それだけではなく、これまでの作業工程を見直す役割もあります。これにより、無駄な工程を省きつつ効率的に工程を組み立てることで、作業効率のアップが見込めるのです。
事故を未然に防ぐ
HACCPは、危険因子を挙げその対策を事前に設定します。事故が発生してからの対策ではなく、事故が発生しないような対策を行うのです。そのため、万が一の事故を未然に防げます。
万が一の際の自己防衛
万が一食品事故が発生し、保健所からの調査が入った場合にも、HACCPにもとづいた適切な衛生管理を行っていた記録があれば、自己防衛につながります。操業停止などの措置が取られる場合も、記録があることにより日数などが減る可能性もあるのです。
HACCP導入のデメリット
HACCP導入には、上記に挙げたメリットだけではなく、デメリットも存在します。
手間がかかる
HACCPの導入には、チームの作成、作業工程図・衛生計画書の作成や日々の衛生管理とその記録など、大きな手間と時間がかかります。
費用がかかる
HACCPは手間がかかると同時に、人件費や設備の見直しによりさらなる費用がかかることがあります。HACCPに関する専門的な知識がない場合は、外部の専門家を呼ぶ費用や参考書などの購入費用も追加でかかってしまいます。
すべての事故を防げるわけではない
HACCPを導入しても、確実にすべての事故を未然に防げるということではありません。綿密な計画を用意していても、運用するのは人間であるためヒューマンエラーも起こり得るのです。また、計画自体に問題がある場合も少なくないので、日々の改善も必要でしょう。
まとめ
HACCP(危害要因分析重要管理点)は、2021年6月より全ての食品事業者に義務化された食品衛生管理法です。その導入は、食の安全確保、衛生管理の意識向上、作業効率の向上など多くのメリットをもたらします。とくに、問題発生前に危険要因を管理することで、食中毒や事故の未然防止に貢献します。一方で、導入には手間や費用がかかる点、ヒューマンエラーを完全には防げない点がデメリットです。しかし、厳格な衛生管理を徹底することで、企業の信頼性向上や競争力強化にもつながります。HACCPは、食品業界にとって不可欠なシステムであり、安全な食品提供のための重要なステップとなるでしょう。